食べてみた! ~N1の食レポ~

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男がビールを変えるとき

酒類
田村十七男
田村十七男

無言のうちに父親から学んだ酒の飲み方

今時「男」などと正面切って言えば、何かとお叱りを受けるかもしれません。それでもあえて掲げたのは、父と息子の関係性において、他に適当な言葉がなかったからです。

直接あれこれ指導されたわけではないけれど、酒を教えてくれたのは父親でした。飲んべ、でしたね。僕が幼い頃から定年を迎えるまで、長きに渡って定時の出社と帰宅を続けた父親の楽しみと言えば晩酌しかないと思えたほどでした。

また、クルマ通勤だったので一杯ひっかけてからの帰宅がなく、しかも酔っ払って管を巻くこともなかったので、酒とはそうやって飲むものだと、無言のうちに学んだような気がします。

まずはビール。その後に日本酒。これが父親のルーティン。いずれも銘柄がほぼ固定されていました。ビールは一貫してキリンラガー。後々いろんなビールが発売されるようになっても、ブランド選択が揺らぐことはありませんでした。その訳、亡くなる前にちゃんと聞いておけばよかった。

  • 「俺のビール」としてエースに君臨してきた『黒ラベル』。なのに……。

30年以上も揺らがなかった「俺のビール」

そんなふうに父親から男の嗜み的な刷り込みを受けて育つと、やがて「俺のビール」を決めるべき時期が訪れます。そこで僕が選んだのは、『サッポロ生ビール黒ラベル』でした。父親とは別の道を生きるというような、大袈裟な理由はありません。ただし比較基準になったのは、父親が好んだキリンラガー。それとくらべて、僕には『サッポロ生ビール黒ラベル』のほうがコクとキレが明快で、飽きが来ないように感じたのです。缶のデザインも好みだった。そうした個人の裁量が「俺のビール」選択には重要と考えたのは、刷り込みではなく思い込みに過ぎなかったのかもしれません。

いずれにしても、僕にとって『サッポロ生ビール黒ラベル』は、30年以上も日本一いや世界一美味しい缶ビールであり続けました。

ところがある日、近所にクラフトビール専門店がオープンしました。クラフトビールがどういうものか、ざっくりとは知っていたけれど、特に興味はなかったのです。ビールは1日1缶。またはジョッキ1杯で十分な飲料だったから。なのに、なぜ多種多様なビールを提供する専門店に立ち寄ったのか、今となってはよくわかりません。

ただ、若い夫婦の独立を応援したかったというお節介があったのだろうと。それから、店主の妻にクラフトビール無知を告げたとき、素人を困らせるマニアックな説明をしなかったことに好感を抱いたのはよく覚えています。

  • 今でも中継ぎ登板で活躍するビールたち。それぞれ個性的なんですよね。

苦み控えめでフルーティな白にハマるなんて

とは言え、クラフトビール専門店で何を注文すればいいか、まるでわかりませんでした。そこで、何を血迷ったか、銘柄を隠したままの利きビールを始めたのです。それを妻の店主がおもしろがった。

いまだ全敗の晩があるゲームが継続しているのは、これもそうなの? と疑うほどにビールの世界が広く深かったからに他なりません。エールにIPAにセゾン、あとなんだっけ? といったレベルの、空けた杯を無駄にするような不勉強ぶりながら、いろいろ飲んでみるのは単純に楽しいのです。

その発見が僕に変化をもたらしました。『サッポロ生ビール黒ラベル』以外を飲んでみてもいいかも。そう思い始めた途端、スーパーマーケットのビールコーナーに色がつきました。

幾多の試し買いから現在のエース・ビールになったのは、『キリン一番搾りホワイトビール』『サッポロ生ビール黒ラベル』とはまるで異なる、苦み控えめでフルーティな白にハマるなんて、自分がいちばん驚いています。何だろうな、優しい飲み口のほうが年齢的に合ってきたのかな。けれど間隔を空けて『サッポロ生ビール黒ラベル』を飲めば、「俺のビールだ」と納得したり。

現エースの降格と新エースの登場が再度あるのだろうか。奥手の遅咲きは一気に乱れるのが定説なので、現在はその渦中をさまよっているだけかもしれません。まったくもって人生は先が読めないものですね。

男がビールを変えるとき、なんて大仰なタイトルで始めてみたものの、要は新しい知恵を身に着けたときがそれってことなんでしょうね。でも、件の店主の妻には今回の件を黙っておきます。「やっぱり私の影響だ」と勝ち誇られるのは癪だから。どこかで悟るかもしれない父親にしても「やっぱりキリンだろ」と言われそうだし。認識の甘さを嗤われる言葉がめちゃくちゃ堪えるのは、この歳になっても僕という男が不完全だからなのでしょう。それを呪いながら飲むビールも案外美味しいけれど。

  • 現エースは、色味も香りも優しい白ビール。

田村十七男

訳あって十数年前に一人暮らしを選んだ際、「ちゃんと暮らす」という目標を掲げた60代前半のフリーランスライター。目標に関して言えば、それまで人任せだった料理に取り組める自分の意外性を知り、我が人生の大発見と自負しております。誰にも気兼ねしない自由と、親譲りの貧乏性がせめぎ合うスーパーマーケットで、今日もお買い物!

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  • 田村十七男

    訳あって十数年前に一人暮らしを選んだ際、「ちゃんと暮らす」という目標を掲げた60代前半のフリーランスライター。目標に関して言えば、それまで人任せだった料理に取り組める自分の意外性を知り、我が人生の大発見と自負しております。誰にも気兼ねしない自由と、親譲りの貧乏性がせめぎ合うスーパーマーケットで、今日もお買い物!

  • コジカism

    夫と中学生の娘との3人家族。 フリーランスで自宅を仕事場にしながら、 娘のお弁当づくりと、近くに暮らす高齢の母のケアをワンオペでこなす日々。 「旬のものをバランスよく食べさせたい」という理想と、 「外食も好きで手抜きもしたい」という本音の間で格闘しつつ献立を模索している。 和食、特に魚が好きな娘に合わせ、 焼き魚と具だくさん味噌汁との組み合わせが食卓に登場する頻度が高い。 自分のためだけの食事づくりは徹底的に手を抜く。

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